センスのABC

岡尾美代子

お話の世界へ

 お話界。そんな世界があるのをご存じだろうか。
 空想好きの人間だけが入れる、特別な場所......なんていうのは嘘だけど、むくむくとわき上がる想像の世界、それは自分の中にあるのだ。十分大人になった今でも、時々、絵本や児童文学を読みたくなってしまう人、ひょっとしたらあなたもお話界の人なのでは?
 もちろん私もお話界の住人で、未だに人間と動物が一緒に食事をしたり、お茶を飲んだりという物語が好きだし、今朝もリスベート・ツヴェルガーが絵を描いた『LITTLE RED CAP(赤ずきん)』の絵本を眺めてから家を出た。赤い帽子にかわいいエプロンを結んだ、この絵本の主人公が大好きなのと、仕事前のイメージトレーニングも兼ねて。でも本当はこの本の世界に入って暮らしたいな、と半ば逃避の気持ちの方が強かったりするのだけれど。
 子供の頃から、パンを入れたカゴを持つ姿や、ガチョウ用にチョッキを作るおばあさんとか、テーブルに乗っかって菓子パンを食べる変テコな帽子をかぶったクマ、そんなお話のディテールが好きで、それをさらに自分の頭の中で想像を膨らませて(例えばテーブルクロスの柄とかお皿の模様とか)、イメージを足しながら物語を読んでいた。
 そんなことがベースになっているのか、今でも仕事でスタイリングをするときは、まずストーリーから考えることが多い。この女の子がピンクの服を着ているのは、いつの間にかピンク色に囚われてしまったから、みたいな。オチはあまりないけれど、小さなディテールを積み重ねてページを構成していく。最近では一日中お茶を飲んでいる女の子のフォトストーリーや、アートとしての脅迫状を作る女の子ファッションとか、かなり変テコではあるけれど、でもきっとそれが私の中に潜む物語の一部なのだと思う。

「不思議の国のアリス」のパッケージに惹かれて買ってみた紅茶。

ティーバッグのタグ(?)には「DRINK ME!」。かわいい。

初めてのロンドン旅行でのミッションは子供の頃から大好きなパディントンに会いに行くことだった。その途中で体調を崩し、ほとんどB&Bで寝ていたのだけれど、なんとか頑張って1人でパディントン駅へ。「Where is Paddington?」と聞く小さな日本人に、親切なイギリス人が指差してくれたのは小さなクマの銅像。もっと大きいと思っていたよ、パディントン。でも君は"非常に珍しい種類"の小さなクマだったね。......そんな思い出もあります。

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PROFILE

岡尾美代子
(おかお・みよこ)

高知県生まれ。スタイリスト。
雑誌・書籍などさまざまな媒体のスタイリングを手がけるほか、
鎌倉で友人とともにデリカテッセン「DAILY by LONG TRACK FOODS」を営む。
『Land Land Land』『Room talk』『肌ざわりの良いもの』『雑貨の友』などの著書がある。

Instagram:@miyokookao  LONG TRACK FOODS